偉い人はポエムを使う
とある政治家でおなじみとなった、何か言っているようで何も言っていない言い回し(通称:ポエム)であるが、実は企業の役員や政治家にとっては必要な能力である。
最近では、様々な企業の謝罪会見で社長がポエムで回答しているのを聞く機会が多い。
相手の質問に対して、自分は詳しく知らないから答えようがないことでも、「知らない」「わからない」と正直に言うわけにはいかないので、何か答える必要がある。
しかし、当然詳しく知らないので中身のある回答はできない。
その結果、本当は何も中身がないのだが、まるで中身があるかのように装ったポエムの様な回答をすることになる。
ポエムとは、「わかりません」と正直に言えない状況が作り出した魔物である。
そして初めに言っておくが、ポエム自体は決して悪いことではない。むしろ、謝罪する場ではとても有効に働くことがある。
とにかく怒っている相手や、責任を取らせようとしてくる相手に対して、ポエムの様な回答をすることで、何を言っているかはよくわからないけど何となく納得感のある場の雰囲気を作り出し、怒りを収めたりその場をやり過ごすことができるのである。
つまり、責任を取る立場の偉い人にとってはポエムは非常に重要なものとなる。
適切に使用されたポエムには、自分の部下たちを外部の攻撃から守る効果がある。
語彙力だけで出世できる
このようなネガティブな場(謝罪会見など)で注目され始めたポエムだが、実は企業の会議や文書などでは普段から頻繁に使われている。
ほとんどの企業には、会議に出て好き勝手言っているだけで自分は何もせずしかも実力もない、というまさに老害と呼ぶにふさわしい役員が結構いる。
そんな彼らにとって、会議というのは中身のない自分をどれだけすごく見せるかというポエムの発表会なのだ。
そして、彼らが能力もないのに出世できているのは、何を隠そうこのポエムの力なのである。
ポエムの源となる力は、つまるところ語彙力(ごいりょく)である。
何もやってないし何もしたくない。実力もない。そんなクズみたいな自分を、ありとあらゆる言葉の表現で武装し、「なんか凄そう」と周りの人間に思わせる。
そう、語彙力とは、実力もないのに出世することを可能にする魔法の力なのである。
語彙力を発揮したポエムの例
例えば、以下の状況の老害役員が「今までの成果とこれからの目標と活動」を社内で発表すると仮定しよう。
- 営業部門担当の役員(能力もないくせに社員の邪魔ばかりするまさに老害)
- 自分の成果は皆無
- 今まで何もしてない
- これからも何もしたくない
この老害の鑑のような状態でも、語彙力があると立派なポエムを作ることができる。
「今まで何もしていない」をポエム化する
まず、「今まで何もしていない」これをポエム化するとこうなる。
- (実際)今まで何もしていない
- (ポエム)我が社の経営理念である○○を大きな軸として捉え、私個人としてまた営業部全体としてその推進に貢献してきた。 私が担当する営業部門の中長期戦略においては、当部門の果たすべき意義を明確化し現状解決すべき課題の洗い出しを行い、それに基づくアクションプラン設定を各年度の初期段階から率先し検討してきた。これに関しては、関連役員・部門との適時適切な合意形成を行い、定期的なレビューを実施することで計画的な施策実行の推進を促した。ミクロな視点では、部門メンバーの顕在能力を正確に捉えブラッシュアップし、潜在能力については可能な限りの顕在化を促すことで部門全体の営業能力の底上げを試みてきた。また、自分自身のマネジメント経験に裏打ちされた大局観から、部門全体の組織力向上のための方向性を正確に捉えるべく自己研鑽に努めてきた。
となる。
この文章、なんか凄いっぽいことを言っているように感じるが、実際には「何もしていない」のと同じ意味のただのポエムである。
注目してほしいのは、「検討した」「促した」「試みた」「努めてきた」等のふわっとした表現を多用していることだ。「検討」は自分の頭の中で1秒でもやれば嘘じゃなくなる。「促した」「試みた」「努めてきた」はただの自分の気持ちの話である。
また彼らは、「貢献する」「洗い出す」「アクションプラン」「率先する」「レビュー」「ブラッシュアップ」「底上げする」「マネジメント」「自己研鑽」などの、一見凄そうだが意味がふわっとしている日本語とよくわからん横文字を好む傾向にある。
どうだろう、周りにこんな表現を多用している老害は居ないだろうか。
「これからも何もしたくない」をポエム化する
次に、「これからも何もしたくない」もポエム化してみる。
基本的に老害は社員に仕事を押し付け、自分は何もしたくないのだ。
- (実際)これからも何もしたくない
- (ポエム)私含め担当部門一丸となって昨年度まで実施してきた中長期施策のアクションについては、引き続きその精度を高めつつ実施してゆく。加えて、担当営業部門のミッションを全社のマクロな視点で捉えた形で具体化しその価値の最大化を目指していく。さらに、長期的に安定した営業基盤を獲得するべく、各メンバの育成にも注力していきたい。特に入社5年目までの若手メンバについては、営業活動のみならずヒトとしての総合力向上を意識した教育基盤の構築に注力していく。また、前年度までに各メンバの力量を把握できたことで組織全体に対する新たな課題や可能性も見えてきた。今年度以降で各メンバの責任範囲を明確化し、各人にゴール設定を踏まえた営業プロセス管理を徹底、さらに個人レベルでPDCAを着実に回すことを促進し組織全体の成果へと昇華させていく。
となる。
この文章も、何やら凄そうな気配がビンビンであるが、実はこれからも絶対に「何もしない」ことを強く宣言しているだけである。
ここで注目したいのは、これからの将来の内容なので極端な話嘘をついても問題無い。しかし、老害はあからさまな大嘘はあまりつかない。なぜなら、自分は絶対に何もしないのであまり大きなことを書くと将来の自分が困るからである。
ポエムによって将来の責任問題を回避しているのである。
老害は保身の事しか考えていない。
そのため、達成できない具体的な目標は立てず、後でなんとでも言い訳のできるポエム的なことしか言わないのだ。
また、自分に実力がない癖にやたらメンバを「教育」したがる。
これは、自分が平社員とは違い部下を教育していく立場であることを周りにアピールすることで、自分自身が全く成長しないことを正当化しているのである。こうなると体の芯から腐っている。
あと、こいつらはやたらPDCAサイクルを回したがる。PDCAが何かもわかっておらず回したこともないくせにだ。たぶん洗濯機か何かと勘違いしているのだろう。
「今まで何もしてないし、これからも何もしない」
このたった一文で表されるクズみたいな内容を、あたかも凄い実績と目標を持っているかのように思わせるポエムの力。
老害たちはこの力を今もどこかで発揮している。
ポエムの道は恋人作りから
この語彙力がもたらすポエムの力は、老害たちだけのものではない。
使いたいと思うかは別にして、若者だってバンバン使って出世していけばいい。
そのためには、若いうちからポエムの作り方に慣れておく必要がある。
ポエムの作り方は簡単である。
具体的なことには一切触れず、とにかく抽象的な表現を並べていくのだ。
この抽象的な表現の量が「語彙力」となるわけだが、これは色々なポエムを読んだり聞いたりすることで養われる。
ポエム道を極めるなら、日ごろから謝罪会見に関するニュースや社内の老害役員の言動をチェックするようにしよう。
そうして十分な語彙力が獲得出来たら、次はそれをできるだけふわふわした感じで並べていこう。この時、恋人と食べに行ったふわふわパンケーキを思い出すと捗るだろう。
このような思い出が無い人は、まずは恋人とふわふわパンケーキを食べに行くことから始めよう。恋人すらいない人は、今気になっている人に連絡を取ることから始めてみよう。
何事も自分から始めなければ進展しない。最初の一歩は勇気が必要だが、ポエムを作るためだと思って頑張ってみてほしい。
そして告白するときは、夏目漱石パイセンが使ったと噂されている「月が綺麗ですね」というポエム界の殿堂入り作品を使ってみてもいいだろう。
こうして無事恋人ができたら、ポエムロードのスタート地点に立つことができる。後はふわふわパンケーキを食べに行って、語彙力と恋人との愛を育てていこう。
少しすると、自分の中の語彙力が上がっているのを実感するとともに、気付けばプライベートも充実したものになっているだろう。
なんか進研ゼミの語彙力講座に付いてくる漫画のオチみたいになってしまったが、とにかく、みんなの人生がポエムで豊かになることを願う。