少年の理解を超えていた英語という言語

読めない言語

僕は四国の田舎町で育った。

小学校までは英語の授業はなく、普段の生活でも英語に接する機会はない。
今は東京に住んでいるので町で外国人をよく見かけるが、田舎では見かけない。
そのため、英語というものを本当に何も知らずに育った

そんな田舎で育った僕が初めて英語に接したのが、中学校の授業である。
もちろん英語という言語の存在は知っていた。アメリカ人が話している言葉でしょ。イエスとかノーとかいうやつでしょ。程度の知識だったが。

中学校の授業では、アルファベットの書き方、ABC…の順番、読み方なんかを教えてもらった。しかし、日本語しか知らない当時の僕にとって、英語という言語は謎だらけでとても理解できるものではなかった。

例えば、「Cat」という単語がある。TOEIC200点台でもわかる。「キャット」と読み、猫という意味だ。

当時の僕はここから理解できなかった。

「Cat」を構成しているアルファベットは「C」、「A」、「T」である。読み方はそれぞれ「シー」、「エー」、「ティー」である。そう教えられた。
なのに、3つ集まって「Cat」になると、シーもエーもティーも消えてキャットになるのである。

え、急にどうしたの?
ちょっと待って、シーとかみんなどこ行ったの?
なんで新しいやついきなり出てくるの?

僕の頭は混乱した。なぜならここの説明は無いからである。表で示すとこうなる。

文字読み方
Cシー
Aエー
Tティー
Catキャット

この表は、この世に存在する表の中で最も内容の薄い表である。

今となっては理解できる。つまり、英語とはそういうもの、なのである。ここは説明とかそういうことではない。

しかし、当時の僕は理解できなかった。日本語ではありえないからである。

日本語の場合、その文字の読み方は絶対である。「き」はどんな単語の中に入っていても「キ」と発音する。「あ」の後の「き」は発音しないとかいう謎ルールも存在しない。

書いてある通り発音すればいいのである。

文字読み方
あきアキ

この表は、さっきの表よりもさらに内容が薄い。

つまり、日本語の構成要素はひらがなである。ひらがなをそのまま読めばいいだけである。ただ、日本語の場合も、「ぴ」は「ピ」だが、「ぴゅ」は「ピュ」となり、ぴの発音が少し変わる
しかし、これは理解できる。発音が似ているし、想像できるからである。最悪、小さい「ゅ」を知らなくて、「ピユ」とそのまま読んでも何となく似た音になる。

ところが、英語はそうではない。「Cat」は「シーエーティー」ではないし、「シエティ」でもなく、全然違う音である「キャット」なのである。せめてシーの感じは残してほしかった。シーとキャは口の動きが全然違うよ。

外国人がたどたどしい日本語で「ピユ」と言っても、日本人なら、もしかして「ピュ」と言いたいのかな?(ピュが何なのかはわからないが)と気付くことができる。
しかし、アメリカ人は僕が「シエティ」といっても「キャット」だと気付いてくれないだろ?どうなのその辺?

と、当時の少年は思ったのであった。

まだまだある。
ある日先生が言った、「I」と「eye」は発音が同じです。これには衝撃が走った。ちょっと震えたと思う。
さすがに違うアルファベット使ってるのに読み方が同じなのはダメでしょ。しかも「I」は一文字で「eye」は3文字使っている。これが同じということは、

 I = 2e + y が成り立つということである。

「I」1人に対抗するために、「e」2人「y」1人を呼んでこないといけないのである。
同じアルファベットなのに、「I」に比べて「e」と「y」の力弱すぎません?

日本語で言うと、「あき」と「ぺぽりっぷ」が同じ読み方ですと言ってるようなものである。これはそもそも言語として成り立っていないんじゃない?
こんな言語怖くて発音できないよ。だって、文字見ても何て読むかわからないんだから。

こうして少年の心は英語から離れたのである。

英語71点、数学100点

そんなわけで、中学最初のテストは散々な結果であった。アルファベットをAから順番に書きましょうという可愛らしい問題でNとMの順番を間違えたのである。そのほかも色々間違えて点数は71点。今でも覚えている。
なお、この後の中学生活でこの点数を超えることはなかった。

一方、僕は数学が異常に得意だったのだが、こちらは当然のように100点を取っていた。英語も数学も勉強は全くしていない。中学レベルなので大した話ではないが、自分でもびっくりしたのを覚えている。
得意なものと苦手なものってこんなに差が出るんだ。と。

別の話であるが、この、「異常に得意なものがある感覚」と「異常に苦手なものがある感覚」の両方を持ち合わせていることは、僕の人生でとても大きな宝となっている。

この辺の話はまた別の記事で紹介したい。